家族構成 1










漫画を読んでいると、父親の影が極端に薄いことがわかってきます。
そして登場人物のどの家庭も、
機能不全であったり、毒親、流行病による一家全滅、実父殺害、天涯孤独
などなど立ち行かない現実を持つキャラクターが多いので簡単にまとめてみました。







原作を読んでの情報と、推測を交えて家族構成を考えてみました。


杉元佐一
名前に一と入っているのでおそらく長兄として杉元家に生まれてと推測ができます。

1巻の6話で

>ここんちの家族はもう3人も結核で死んでいる
>今朝おやじが死んだ報せがきた

このセリフから、杉元家は佐一を合わせて5人家族であり、佐一以外の全員が結核に倒れて亡くなりました。
残った佐一は早い段階で一人暮らしをして過ごしていたことになります。
また、結核を発症した家ということで村八分にされた佐一は多感な時期を差別される人生ハードモードの道が開きました。

結核は感染してから8割が2年以内に発症し、特効薬のない明治時代の患者は感染拡大を防ぐため療養のためと隔離されて限られた余生を過ごします。発病した半数が5年以内に亡くなっている致死率の高さは戦前死因1位、2位と毎年上位に位置し亡国病とまで呼ばれていました。

不死身の杉元はこの頃から免疫力の強さを発揮して、家族で唯一人だけ発病まで至らず生き残っています。
そして10代後半には家督を継ぎ天涯孤独となって村を出ています。

幼少期は長男で顔もよく剣術に柔道もできて可愛い幼馴染がいて、頭も悪くないのでイージーモードかと思いきやの人生でしたが、彼には天から降ろされた役目があるのでなかなか死ねません。

父、母、佐一、(?)、(?)
?には兄弟か祖父母のどれかが入りますね。



アシリパ

彼女も幼い時から家族が次々と自分の元から離れていく寂しい人生を送っています。
母親がアシリパを生んですぐに病死しているので、乳幼児時代はコタンの女性たちにお乳を貰いながら育ててもらったのでしょうか。アシリパは過去にイオマンテで送られた子熊を弟のように可愛がっていたり、ニホンオオカミのレタラと過ごしたりと動物を可愛がり家族として迎え入れています。しかし両者ともアシリパの家族にはなれませんでした。

10年以上前 母親病死
6年前          祖父病死
                    子熊 イオマンテ
5年前          父親 死亡(網走に収容)
                   レタラ 山へ帰る
現在、祖母がコタンで床に伏せてしまい、父親は尾形に射殺されてしまいました。

こうしてみると、アシリパは常に別れとともに歩む人生です。
少女が大人びてる理由の一つは、ここにあるのかもしれません。
死んだとされていた父親が実は生きていて、それも殺人犯であるかもしれないという情報に年端もいかない女の子の胸に突き刺さるはずですが、アシリパは弱い部分をみせません。杉元とともに行動し、疑似家族に近い信頼関係で結ばれているので精神的な力強さが相互作用しているように思います。その苦しみを乗り越えてやっとの思いで父親を確認した瞬間に殺害されてしまいます。



尾形百之助

乳児期         父親とはほぼ会わず、弟が生まれると母と共に田舎へ追いやられる
幼少期         祖父母に育てられる、実母毒殺
日露戦争     203高地で弟射殺
日露戦争後  父親刺殺


尊属殺のエリート的存在ですね。
地獄の絵本によると父母殺しは最も重い罪とみなされ、五逆の罪によって阿鼻地獄に落ちて永劫に苦しむとされています。また古来よりどの国でも血族を殺すことは特に重たい罪として日本も同様に刑法200条により無期懲役又は死刑となっています。が、明治の時代はまだ尊属加重規定はありません。尾形は作中でも断トツで名前のある人物を殺害しまくっていますが、今のところ法の外に居るので裁かれる日はまだまだ遠そうです。

主人公の杉元と同じく家族全員が既に死亡していますが、その性質は正反対で尾形は自らの手で血縁を殺しています。特筆すべき点は、恨みや憎しみ、激情といった感情なく静かに家族を消していってるところに異質さを感じます。自ら孤独になる環境を作っているのでしょうか。気が付いたらそうなっていた結果に過ぎないのでしょうか。
5巻で浩平に「バアチャン子」であると語ったセリフはとても印象深いです。
11巻で谷垣がフチの名前を出した時に少しだけ考えが変わったりと、お年寄りには少し優しい意外な一面がある尾形です。




谷垣源次郎


名前からわかる通り上には兄がいて、下に妹のフミがいます。
妹は幼馴染の青山賢吉と結婚し、彼も義弟になります。
阿仁マタギの父親をもち、自らもマタギとして育ちますが妹の死によってマタギを捨てて軍に志願します。
その間に母は病死してしまい、故郷にはマタギの父と兄が残っています。



1904      賢吉とフミが結婚
                      新婚間もなくフミが疱瘡にかかり、やむなく賢吉が胸を突いて殺す
                      賢吉、東京に本籍を移し第1師団に入隊
                      谷垣 賢吉の噂を追ってマタギをやめて第7師団に入隊⇨北海道へ
              2  日露戦争開戦
            10  出征直前に 病死の報せ
190411  旅順で賢吉を見つけ、最期の言葉をきく
      

不確定要素ですが、お兄ちゃんは3歳以上離れていると思います。
徴兵の年齢に達するより少し早い時期に志願した谷垣の家には兄がいたので3年間の兵役を終えて予備役に入ったのかな明治6年に制定された徴兵令の中には家督相続者である長男は免除とされていましたが、日清戦争前の明治22年に大規模な改正が行われほぼ全員の健康な男子が徴兵されているので彼ももれなく参加しているはずです。年齢的にもしかしたらお嫁さんを貰っているかもしれませんね。谷垣もインカラマッを連れて故郷に帰るのでしょうか。

父親の影が極端に薄い漫画ですが、谷垣の父親は存命で顔も出ています。
妹の為に故郷を飛び出してきた谷垣ですが、無事に帰って妹たちが住んでいた小屋で起きた真実を父に伝えてほしいなと思うところです。


この時代、死はもっと身近に寄り添い風邪を拗らせてその晩に亡くなるなんて話もざらでした。
なので登場人物の家族に起きた悲劇というのも、そう騒ぎ立てるものでもないのかもしれません。

もう少し、ほかのキャラクターをみてみようと思います。
<つづく>

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